“Qui fit, Maecenas, ut nemo, quam sibi sortem seu ratio dederit seu fors obiecerit, illa contentus vivat, laudet diversa sequentes?”
ホラティウス『風刺詩』1.1.1-3 の翻訳と解釈
この部分は、古代ローマの詩人ホラティウスの『風刺詩』(Satirae)の第1巻第1歌の冒頭3行です。
ラテン語原文:
Qui fit, Maecenas, ut nemo, quam sibi sortem seu ratio dederit seu fors obiecerit, illa contentus vivat, laudet diversa sequentes?
逐語訳:
Qui fit , Maecenas, ut nemo … vivat …? : どのようにして、メセーナスよ、誰もが…生きていけないのか?
Qui fit : どのようにして、どうして(疑問詞qui + fit「起こる」)
Maecenas : メセーナス(ホラティウスのパトロン)
nemo : 誰も…ない(否定)
vivat : 生きる(接続法現在、間接疑問)
…quam sortem …illa … : …どの運命を…その運命に…
quam sortem : どの運命を(関係形容詞quam + sortem「運命」)
illa : その(指示代名詞、sortemを受ける)
…sibi …dederit …obiecerit , : …自らに…与えたか…投げかけたか、
sibi : 自らに(与格、対格)
dederit : 与えたか(dedit「与える」完了、接続法、間接疑問)
obiecerit : 投げかけたか(obiecit「投げかける」完了、接続法、間接疑問)
seu ratio … seu fors : 理性か…あるいは運命か
seu…seu : あるいは…あるいは
ratio : 理性
fors : 運命、偶然
… contentus : 満足して
contentus : 満足して(過去分詞、vivatを修飾)
…laudet diversa sequentes ? : …異なるものを追求する人たちを賞賛するのか?
laudet : 賞賛するのか(接続法現在、間接疑問)
diversa : 異なるもの(対格複数)
sequentes : 追求する人たち(現在分詞、diversaを修飾)
文法的解釈:
主文は「Qui fit…vivat…laudet…?」という間接疑問文。
「quam sortem」はnemoを先行詞とする関係詞節。
「seu ratio dederit seu fors obiecerit」はsortemを共通の目的語とする並列構文。
contentusとsequentesはどちらもnemoを修飾する分詞。
日本語訳:
メセーナスよ、どうして誰も、理性を与えたにせよ、運命が投げかけたにせよ、自分の運命に満足して生きることができず、異なる境遇を追い求める人たちを賞賛するのでしょうか?
解説:
ホラティウスはこの詩の冒頭で、人間の普遍的な不満について問いかけています。人は皆、自分が置かれた状況とは異なる何かを望み、他人を羨んでしまう傾向があります。ホラティウスはこのような人間の性向を皮肉を込めて表現しています。
ホラティウス(Horatius)の『諷刺詩』(Satires)は、古代ローマの詩人ホラティウスが紀元前35年から30年頃にかけて書いた風刺詩集です。この作品は、ホラティウスが当時のローマ社会や人間の行動について批判や観察を行う際に用いた詩の形式で、ユーモアや皮肉を交えながら、人々の不条理や弱点を描き出しています。
ホラティウスの『諷刺詩』は2巻から成り、全18編の詩で構成されています。彼の風刺詩には、友情、道徳、富、欲望、名誉、自己認識など、普遍的なテーマが多く扱われており、これらを通じて人間性や社会の本質に迫っています。
ホラティウスの風刺詩は、ただの批判ではなく、ユーモアとウィットを駆使しつつも、根底には人間や人生に対する深い洞察と愛情が感じられるものです。そのため、古代から現代に至るまで、多くの人々に影響を与え、文学作品としても高く評価されています。
例えば、「黄金の中庸」(Aurea mediocritas)や「満足することを知る」(Sapere aude)など、ホラティウスの風刺詩の中で語られるフレーズは、彼の哲学的な思想を表すものとして後世に広く知られています。
ホラティウスの『諷刺詩』は、古代ローマ文学の中でも重要な作品の一つであり、彼の他の詩集(『頌歌』や『書簡』など)と共に、ローマ詩の黄金時代を代表する作品とされています。