積ん読していた、聖母文庫1992年出版のリチャード・コート著「笑いの神学」を読みました。笑いを神学的に考察するというものです。しかも、肯定的にです。
伝統的には笑いが神の属性として考慮されることはありませんでした。ギリシャ的な徳の思想がキリスト教の中に影響を与えたのでしょうか、「イエスは笑わなかった」というフレーズと共に、悲しむキリスト像が神の属性とともに論じられてキリスト教の霊性を形づくってきました。
著者は、しかし、笑い(ユーモア)を神の属性の一つとして加えることを主張し、現代における教会の霊性を受け取りなおす(「再発見」と表現しています)ようにと勧めています。ことに、福音を受けとめるセンス、抑圧の下で自由を獲得する秘訣(笑う勇気)を語ります。その基礎的な神学的考察と、展開とが、古今東西の神学者や哲学者、文学者などの言葉とともに論述されます。神学的な論考ですが、やわらかい楽しい読み物です。翻訳はよくこなれた日本語になっていますが、一部、混乱があるのかな?と思わせるところもあります。けっこう重要な部分なので、原文を眺めてみたいとい思っています。
以下の言葉は、笑いの神学の入り口となる重要なイメージとして語られていますが、わたくしはことのほか気に入りました。「教皇ヨハネ23世は笑いの預言者だった。教皇の信仰は、新しい時代のさきぶれとなり、教会の中で笑いを可能にした。教皇の信仰は、教皇が弱い、罪深い、いくらか本物らしくない、太った、よろよろする人間であってもよいのだと、堂々としかも率直に宣言した。」
なお、リチャード・コート氏は神父で、アメリカと南アフリカで神学を教えた経験をお持ちで、本書の発売時には、カナダのオタワのセント・ポール大学で神学を講じておられました。博学でプロテスタント神学にも親しみをもって接しておられるようです。