エピグラムと古代ローマ CⅩⅩⅢ

“Quod mihi donasti, reddis mihi, Rufe, lucernas:

tam male cum lucent, quid tibi vina nocent?”

この詩もマルティアリス(Marcus Valerius Martialis)の『エピグラム集』からの引用です。

文法的解釈と翻訳

Quod mihi donasti, reddis mihi, Rufe, lucernas:

  • Quod(関係代名詞、中性単数対格)= ~するものを
  • mihi(与格)= 私に
  • donasti(完了、2人称単数)= あなたが贈った
  • reddis(現在、2人称単数)= あなたは返す
  • mihi(与格)= 私に
  • Rufe(呼格)= ルフスよ
  • lucernas(対格複数、女性名詞)= ランプを

tam male cum lucent, quid tibi vina nocent?

  • tam male(副詞句)= それほどひどく
  • cum lucent(接続法現在、3人称複数)= それらが光るとき
  • quid(疑問代名詞、主格中性)= 何が
  • tibi(与格)= あなたに
  • vina(主格複数、中性名詞)= ワインが
  • nocent(現在、3人称複数)= 害を与える

翻訳: 「ルフスよ、あなたが私に贈ったランプを、あなたは私に返している。 それらがそれほどひどく光るのに、ワインがあなたに何の害を与えるというのか?」

詩の解釈

この詩は、マルティアリス特有の機知に富んだ皮肉な作品です。

状況の設定: 友人ルフスがマルティアリスにランプを贈り物として与えたが、後でそれを返してもらおうとしている場面です。

皮肉の構造: マルティアリスは、そのランプが「ひどく光る」(つまり品質が悪い、薄暗い)ことを指摘し、「そんなに暗いランプなのに、なぜワインを心配するのか?」と皮肉を言っています。つまり、ランプが暗すぎてワインを飲んでも見えないほどなのに、なぜワインの害を気にするのか、という逆説的な表現です。

より深い意味: この詩には二重の皮肉があります。まず、贈り物を後で返してもらうという友人の けちさを批判し、さらにその贈り物自体が粗悪品だったことを暴露しています。

文化的・社会的背景

ローマの贈り物文化: ローマ社会では、友人関係や社会的地位を維持するために贈り物の交換が重要でした。しかし、真の友情ではなく打算的な関係も多く、マルティアリスはこうした偽善的な社交関係をしばしば批判しました。

日用品としてのランプ: 古代ローマでは油を燃やすランプが主要な照明器具でした。品質の良いランプは明るく燃え、悪いものは薄暗く煙を出しました。ランプの品質は日常生活の質に直結する実用的な問題でした。

ワイン文化と道徳観: ローマではワインは日常的な飲み物でしたが、過度の飲酒は道徳的に非難されていました。しかし、マルティアリスはここで、暗いランプのおかげでワインを飲んでも見えないのだから問題ないだろう、と皮肉っているのです。

社会階層と友人関係: マルティアリスは中産階級の詩人として、しばしば富裕層の偽善や けちさを批判しました。この詩も、表面的には親切だが実際には計算高い友人への辛辣な批判として読むことができます。

エピグラムの文学技法: 短い詩形の中に状況説明、皮肉、そして鋭い結論を込めるマルティアリスの巧妙な技法が発揮されています。日常的な小さな出来事から普遍的な人間性の洞察を引き出す、彼の文学的才能の典型例です。

この作品は、ローマ社会の人間関係の複雑さと、マルティアリスの鋭い社会観察眼を示す優れた例といえます。