AI創作:『書物行商人マルクスの憂鬱』

『書物行商人マルクスの憂鬱』

ローマの石畳を軋ませながら、マルクスは今日も重い荷車を引いていた。車輪の一つがいつものように斜めに傾き、がたがたと不協和音を奏でている。荷台には革表紙の書物から粗末なパピルスまで、ありとあらゆる文字の刻まれたものが山と積まれていた。

「institor, heu, vitas vendit sub fasce libellos」

通りすがりの詩人が彼を見てそう呟いた。ああ、あの行商人は、書物を荷車に載せて売っている、人生ごと。マルクスは苦笑いを浮かべた。詩人たちはいつもこうだ。表面だけ見て、勝手に深い意味を見出そうとする。

だが、その詩人の言葉はあながち間違いでもなかった。マルクスが売る書物一冊一冊には、確かに誰かの人生が込められていた。哲学者の思索、恋人への手紙、歴史家の記録、そして時には遺書さえも。

フォルム・ロマヌムの片隅で荷車を止めると、早速客がやってきた。最初は若い学生で、アリストテレスの写本を求めていた。

「これは高品質な写本だ」マルクスは胸を張った。「写字生のルキウスが三ヶ月かけて仕上げた傑作だよ。彼は愛する女性に振られて、その悲しみを紛らわすために夜通し文字を書き続けたんだ。だから一文字一文字に魂が宿っている」

学生は眉をひそめた。「それで値段が上がるわけですか?」

「もちろんだ。君は哲学だけでなく、失恋の痛みも一緒に学べるんだからな」

学生は結局、別の安い写本を買って去っていった。

次にやってきたのは貴族の夫人だった。「何か面白い恋愛詩はありませんか?」

マルクスは奥から一冊の美しい詩集を取り出した。「これはカトゥルスの詩集の写本です。作者は自分の恋人レスビアへの愛を歌っています。ただし」彼は声を潜めた。「この写本を作ったのは、妻に先立たれた老いた写字生でした。彼は亡き妻への想いを重ねながら、一行一行を写していったのです。涙の跡がページの端に残っているのがお分かりでしょう」

夫人は感動して高値でその詩集を購入した。マルクスは内心でほくそ笑んだ。涙の跡というのは、実は昨夜彼がワインをこぼした跡だったのだ。

午後になると、一人の老哲学者がやってきた。彼は長い間マルクスの書物を眺めていたが、やがて口を開いた。

「君は書物を売っているが、本当に売っているのは何だと思うかね?」

マルクスは例の詩を思い出した。「人生、でしょうか?」

老人は微笑んだ。「そう、人生だ。だが君自身の人生はどうだ?毎日他人の思想や感情を運んで歩いているが、君自身の考えや夢はどこにある?」

その夜、マルクスは狭い部屋で一人考え込んだ。確かに彼は他人の人生を売って生計を立てていた。哲学者の知恵、詩人の情熱、歴史家の洞察。だが自分自身は何を残せるのだろうか?

翌朝、マルクスは新しい看板を荷車に掲げた。「書物行商人マルクス:人生も一緒にお売りします」

最初の客は昨日の若い学生だった。「その看板はどういう意味ですか?」

マルクスは笑った。「institor, heu, vitas vendit sub fasce libellos。詩人の言う通りさ。僕は書物を売っているんじゃない。人生を売っているんだ。作者の人生、写字生の人生、そして」彼は胸を叩いた。「この行商人の人生もな」

「それで値段は変わるんですか?」

「いや、変わらない。ただし、君が買うのは単なる文字じゃない。血の通った人間の魂だということを忘れないでくれ」

学生はにっこり笑って、今度はアリストテレスの高い写本を買っていった。

マルクスは荷車を引きながら思った。確かに自分は人生を売っている。だが同時に、人生を分け与えてもいるのだ。そして何より、自分自身の人生を、この石畳の上で一歩一歩刻んでいるのだった。

夕日がローマの街を染める頃、マルクスの荷車は今日も静かに家路についていく。車輪の軋む音が、まるで古い詩の韻律のように響いていた。