Scribere me quereris, Velox, epigrammata longa:
ipse nihil scribis: tu breviora facis.
…
dum scribo, et saturae, dum crebros carmine versus
ludo, Thais, Romae vivere non possum.
この詩はマルティアリス『エピグラム集』第12巻第18詩(12.18)からの一節で、
ローマの喧騒と詩人としての創作困難、そして都会生活の皮肉が絶妙に込められています。
創作物語《ローマで詩を書くということ》
(ChatGPT-4o)

ローマの午後は、いつも騒がしい。
石畳を叩く車輪の音、奴隷の怒号、酒場から漏れる笑い声――
詩を書くには、まったく向かない町だ。
マルクス・ウァレリウス・マルティアリスは、インスラの粗末な机に肘をついて、羊皮紙の隅をにらんでいた。
「長いよ、マルクス。君のエピグラム、ちょっとくどいよ。」
と昨日も、ヴェロクスが言った。
「で、君は何を書いてるんだい?」と返すと、ヴェロクスは肩をすくめて笑った。
「何も。でも、俺の方が短い。」
――何も書いてない奴が、「短い詩」を作ってると自慢するとは!
マルティアリスは、怒るより先に苦笑した。
それでも気になるのは、長くなる己の筆。
「これじゃ本にしても売れやしないな…」
とため息が漏れる。
部屋の隅には、使い古された蝋板と筆記道具が無造作に転がっていた。
彼はそれを拾い上げると、試しに一行だけ書いた。
Scribere me quereris, Velox, epigrammata longa…
(君は不平を言う、ヴェロクスよ、私が長い詩を書くと。)
いい出だしだ。
ふと、窓の外で嬌声がした。
通りを歩く一人の女が彼の目に留まる――
艶やかな髪に、軽やかな足取り。
名はタイス。
以前、彼に「詩人なんてやめて、現実を見なさい」と笑った娼婦だ。
彼はまた筆を走らせる。
Dum scribo, et saturae, dum crebros carmine versus ludo, Thais, Romae vivere non possum.
(風刺や詩句で戯れている間、私はローマでは生きていけない、タイスよ。)
筆を置き、杯を傾ける。
薄いワインの味。
そして、いつも通りの現実の味――
詩を書いていても、腹はふくれない。
だが、書かずにはいられないのだ。
それが、マルティアリスという詩人の、救いであり呪いでもあった。