――フォルム・ロマヌムの陽が高く昇るころ、私は詩人マルクス・ウァレリウス・マルティアリスと出会った。
「今日は特別な日になるぞ、若き友よ。君にローマの誇る、あらゆる階層のご婦人たちを紹介してやろう」
そう言って彼は、陽気な笑みとともに、私を街の喧騒の中へと誘った。
◆スブーラの露店女主人、ガッリア
「まずは生活感あふれる彼女からだ」と案内されたのは、スブーラ地区のにぎやかな屋台。そこには、肘まくりした中年女性が客と軽口を叩きながらパンを売っていた。
“Et lauta est, nec saepe tamen laudanda Sabina:
saepe tamen lauta est, si non lauta fuit.”
― Martialis, Epigrammata, I.112
(サビナは贅沢で、とはいえしばしば褒められるような贅沢ではない。だがもし贅沢でなかったら、あれほどには贅沢に見えただろうか?)
「贅沢とは、見せ方ひとつなのさ」とマルティアリスが囁いた。
◆アウェンティヌスの貴婦人、ルキッラ
次に訪れたのは、アウェンティヌスの丘の館。絹をまとい、香を漂わせる婦人ルキッラが、微笑とともに現れた。
“Non amo te, Sabidi, nec possum dicere quare:
hoc tantum possum dicere, non amo te.”
― Martialis, Epigrammata, I.32
(私はおまえが好きではない、サビディウス。理由は言えない。ただ言えるのは、それだけだ。)
「ルキッラも誰かにそう言ったことがあるに違いない」とマルティアリスは笑う。
◆カンプス・マルティウスの踊り子、キオネ
日が傾くころ、カンプス・マルティウスの広場では踊り子たちの輪ができていた。その中に、ひときわしなやかな動きを見せる少女がいた。
“Risus abundat in ore: sed nil in pectore mentis;
nec tamen infelix dicitur esse Venus.”
― Martialis, Epigrammata, VII.14
(笑みは顔に満ちているが、胸には知恵がない――それでも、彼女は不幸ではない。ヴィーナスのように。)
「美とは知恵の外にあることもある、それをローマ人はよく知っているのだよ」とマルティアリス。
◆帰り道の独り者、クラウディア
夜も更け、帰途につこうとした時、一人のご婦人が灯の下をゆっくりと歩いていた。
「彼女はクラウディア、子を持たず、夫を喪った者だが、誰より誇り高く、ローマの夜を歩く資格がある。」
“Laudat amat laudata: vocat, sed non amat omnes:
laudari nimium non sine crimine est.”
― Martialis, Epigrammata, VIII.12
(誉められては愛し、愛されたくて呼ぶ――だが皆を愛するわけではない。あまりに賞賛されるのも、また罪のひとつ。)
私は思った――この街の美しさは、建物や遺跡ではなく、生きた人々、そしてご婦人たちの多彩な人生にあるのだと。
「ローマは女神のような街さ」とマルティアリスが静かに言った。「そして今日、君はその女神のまなざしを垣間見たのだ。」
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