マルティアリスのエピグラムと古代ローマ L

Menophili penem tam grandis fibula vestit Ut sit comoedis omnibus una satis. Hunc ego credideram – nam saepe lavamur in unum – Sollicitum voci parcere, Flacce, suae; Dum ludit media populo spectante palaestra, Delapsa est misero fibula: verpus erat.

3.7Sonnetによる翻訳と文法的説明


こちらはマルティアリスのエピグラムを日本語に翻訳し、文法の解説を添えます。

翻訳

メノフィルスの陰茎はとても大きな留め金で覆われている
コメディア俳優全員に一つで十分なほどに。
私は彼が(というのも私たちはよく一緒に入浴するので)
自分の声を守るために心配しているのだと思っていた、フラックスよ。
彼が広場の真ん中で人々が見ている前で運動していた時、
哀れな彼の留め金が外れた:彼は包皮切除をしていたのだ。

文法解説

  1. 「Menophili penem tam grandis fibula vestit」
  • Menophili: Menophilus(固有名詞)の属格形
  • penem: penis(陰茎)の対格形
  • tam: 「とても」を意味する副詞
  • grandis: grandis(大きい)の主格形
  • fibula: 「留め金」を意味する名詞、主格形
  • vestit: vestire(覆う、着せる)の現在形、3人称単数
  1. 「Ut sit comoedis omnibus una satis」
  • Ut: 「~するように」を表す接続詞
  • sit: sum(である)の接続法現在形、3人称単数
  • comoedis: comoedus(喜劇俳優)の複数与格形
  • omnibus: omnis(すべての)の複数与格形
  • una: unus(一つの)の女性単数主格形(fibula を指す)
  • satis: 「十分に」を意味する副詞
  1. 「Hunc ego credideram – nam saepe lavamur in unum -」
  • Hunc: hic(この人)の男性単数対格形(Menophilus を指す)
  • ego: 「私は」を意味する主格の人称代名詞
  • credideram: credo(信じる)の大過去形、1人称単数
  • nam: 「なぜなら」を意味する接続詞
  • saepe: 「しばしば」を意味する副詞
  • lavamur: lavo(洗う)の受動態現在形、1人称複数
  • in unum: 「一緒に」を意味する熟語
  1. 「Sollicitum voci parcere, Flacce, suae」
  • Sollicitum: sollicitus(心配している)の男性単数対格形
  • voci: vox(声)の単数与格形
  • parcere: parco(守る、節約する)の不定詞
  • Flacce: Flaccus(フラックス、詩人の友人)の呼格形
  • suae: suus(彼自身の)の女性単数与格形
  1. 「Dum ludit media populo spectante palaestra」
  • Dum: 「~している間に」を意味する接続詞
  • ludit: ludo(遊ぶ、運動する)の現在形、3人称単数
  • media: medius(中央の)の女性単数奪格形
  • populo: populus(人々、民衆)の単数奪格形
  • spectante: specto(見る)の現在分詞、単数奪格形
  • palaestra: 「運動場、広場」を意味する名詞、単数奪格形
  1. 「Delapsa est misero fibula: verpus erat」
  • Delapsa est: delabor(落ちる)の完了形、3人称単数女性形
  • misero: miser(哀れな)の男性単数与格形
  • fibula: 「留め金」を意味する名詞、主格形
  • verpus: 「包皮切除をした人」を意味する名詞、主格形
  • erat: sum(である)の未完了過去形、3人称単数

この詩はローマ時代の風刺詩人マルティアリスによるもので、性的なユーモアを含んでいます。詩中の「fibula」は実際には古代ローマで歌手や俳優が声を守るために使用された装置を指し、「verpus」はユダヤ人を指す言葉としても使われていました。

このエピグラムと古代ローマの文化・習俗


このエピグラムには、古代ローマの複数の文化的・社会的習慣が反映されています。主な要素を解説します:

1. インフィブラティオ(Infibulatio)

エピグラムの中心的な話題は「フィブラ(fibula)」と呼ばれる装置です。これは男性の性器に装着する金属製または革製の留め具で、性的禁欲を強制するために使用されました。特に若い男性歌手や俳優(comoedi)に対して行われた習慣です。

この処置の目的:

  • 声質の保護:当時は、性行為が男性の声質に悪影響を与えると信じられていました。特に歌手や俳優の場合、声は彼らの職業生命に直結するため重要でした。
  • 禁欲の強制:若い芸能人の性的活動を制限することで、仕事に集中させる意図もありました。

2. 公共浴場(Thermae)の文化

「nam saepe lavamur in unum」(私たちはよく一緒に入浴するので)という一節は、古代ローマの公共浴場文化を反映しています。

  • 社交の場:浴場は単なる清潔のための場所ではなく、重要な社交の場でした。
  • 裸体の文化:ローマ人は公共の浴場で裸になることに抵抗がなく、これが詩人が「メノフィルス」の身体的特徴を観察できた状況を説明しています。
  • 階級を超えた交流:様々な社会階層の市民が同じ浴場を利用し、交流する機会となっていました。

3. パラエストラ(Palaestra)での公開運動

「media populo spectante palaestra」(広場の真ん中で人々が見ている前で)という表現は、パラエストラでの公開運動の習慣を示しています。

  • パラエストラ:ギリシャ由来の運動施設で、レスリングや他の運動競技のための場所でした。
  • 公開性:運動競技は公開で行われ、観客が見物することが一般的でした。
  • 裸体での運動:古代ギリシャ・ローマでは運動は裸体(またはほぼ裸体)で行うことが一般的でした。

4. ユダヤ人と割礼の文化的認識

「verpus erat」(彼は包皮切除をしていた)という結末は、ローマ社会におけるユダヤ人と割礼に関する認識を反映しています。

  • 文化的マーカー:割礼はユダヤ人を識別する身体的特徴として認識されていました。
  • 異質性:ローマ社会では割礼は「外国的」な習慣とみなされ、時には風刺や冗談の対象となりました。
  • 社会的含意:この詩では、メノフィルスが「フィブラ」を着けている理由が実は声を守るためではなく、自身のユダヤ的アイデンティティを隠すためだった、という意外な展開を示しています。

5. ローマの風刺文学

エピグラム自体が、ローマの風刺文学の伝統を体現しています。

  • 鋭い観察:社会的慣習や個人の奇癖を鋭く観察し風刺する伝統
  • 性的ユーモア:性的な話題を直接的に扱うことがローマ文学では珍しくなかった
  • 社会批評:笑いを通じて社会的・文化的緊張関係を探求する手段

このエピグラムは、わずか数行の中に古代ローマの複数の文化的側面を凝縮して描いており、社会的習慣と個人的アイデンティティの交差点を風刺的に描写しています。


ここまでです。お付き合いくださりありがとうございました。