Condita cum tibi sit iam sexagensima messis Et facies multo splendeat alba pilo, Discurris tota vagus urbe, nec ulla cathedra est Cui non mane feras inrequietus Ave; Et sine te nulli fas est prodire tribuno, Nec caret officio consul uterque tuo…
3.7Sonnetによる翻訳
マルティアリスの「Condita cum tibi sit iam sexagensima messis」エピグラムの文法的解釈と翻訳
文法的解釈
1-2行目: Condita cum tibi sit iam sexagensima messis / Et facies multo splendeat alba pilo,
- Condita… sit: condo「収める、蓄える」の完了分詞女性単数主格 + sit(sum「である」の接続法現在3人称単数)→「収められている」
- cum: 接続詞「~のとき」(時間的・状況的従属節を導入)
- tibi: tu「あなた」の与格 →「あなたにとって」
- iam: 副詞「すでに」
- sexagensima: sexagensimus「60番目の」女性単数主格 →「60番目の」
- messis: messis「収穫」の女性単数主格 →「収穫が」
- Et: 接続詞「そして」
- facies: facies「顔」の女性単数主格 →「顔は」
- multo… pilo: multo(multus「多くの」男性単数奪格)+ pilo(pilus「毛、髪」の奪格単数)→「多くの白髪で」(奪格で手段・原因)
- splendeat: splendeo「輝く」の接続法現在3人称単数 →「輝いている」
- alba: albus「白い」の女性単数主格 →「白く」(faciesを修飾)
3-4行目: Discurris tota vagus urbe, nec ulla cathedra est / Cui non mane feras inrequietus Ave;
- Discurris: discurro「あちこち走る」の直説法現在2人称単数 →「あなたは走り回る」
- tota… urbe: tota(totus「全体の」女性単数奪格)+ urbe(urbs「都市」の奪格単数)→「都市全体で」(場所の奪格)
- vagus: vagus「さまよう」の男性単数主格 →「さまよいながら」(主語の状態)
- nec: 接続詞「そして~ない」
- ulla cathedra est: ulla(ullus「何か」の女性単数主格)+ cathedra(「椅子、席」女性単数主格)+ est(sum「である」の3人称単数)→「どんな椅子もない」
- Cui: qui/quis「誰/どれ」の与格単数(cathedraを先行詞とする関係代名詞)→「そこに」
- non: 否定「~ない」
- mane: 副詞「朝に」
- feras: fero「運ぶ、言う」の接続法現在2人称単数 →「あなたが言う[かもしれない]」
- inrequietus: inquietus「落ち着かない」の男性単数主格 →「落ち着きなく」(主語の状態)
- Ave: 「こんにちは、挨拶」(ラテン語の挨拶)
5-6行目: Et sine te nulli fas est prodire tribuno, / Nec caret officio consul uterque tuo…
- Et sine te: Et(接続詞「そして」)+ sine(前置詞「~なしで」)+ te(tu「あなた」の奪格)→「そしてあなたなしでは」
- nulli… tribuno: nulli(nullus「何も~ない」の男性単数与格)+ tribuno(tribunus「護民官」の与格単数)→「どの護民官にも~ない」(与格で不利益)
- fas est: fas(「神の法、正しいこと」中性主格)+ est(sum「である」の3人称単数)→「許されている」
- prodire: prodeo「前に出る、進む」の不定詞 →「進むこと」
- Nec: 接続詞「そして~ない」
- caret: careo「欠く、~がない」の直説法現在3人称単数 →「欠いている」
- officio… tuo: officio(officium「義務、奉仕」の奪格単数)+ tuo(tuus「あなたの」中性単数奪格)→「あなたの奉仕を」(careoの目的語は奪格)
- consul uterque: consul(「執政官」主格単数)+ uterque(「両方の」男性単数主格)→「両方の執政官は」
翻訳
「すでにあなたにとって60回目の収穫が蓄えられており、
あなたの顔は多くの白髪で白く輝いているというのに、
あなたは落ち着きなく都市中をさまよい回り、
朝に「こんにちは」と言わない椅子は一つもない。
そしてあなたがいなければどの護民官も出かけることができず、
両方の執政官もあなたの奉仕なしではいられない…」
文脈的解釈
このエピグラムは、高齢にもかかわらず(60回の収穫=60歳)、なお精力的に都市中を走り回り、社交活動に熱心な人物を風刺しています。その人物は朝の挨拶回りを欠かさず、政治家たち(護民官や執政官)への取り入りに熱心な様子が描かれています。マルティアリスは老人の白髪と若々しい行動力の対比を通じて、おそらく出世や社会的地位を求める老人の滑稽さを皮肉っています。ローマ社会における朝の挨拶(salutatio)の習慣や、パトロン・クライアント関係の社会的慣習が背景として読み取れます。
古代ローマ人の寿命について
平均寿命
統計的概観
- 平均寿命: 古代ローマ時代の平均寿命は約25-30歳程度と推定されている
- 幼児死亡率: 非常に高く、生まれた子どもの約30%が1歳までに、約50%が10歳までに死亡していた
- 乳幼児期を過ぎた場合: 10歳まで生き延びた人の平均余命は比較的改善し、さらに約30-40年生きることができた
年齢層別の生存率
- 成人年齢(男性15-17歳頃)まで: 生まれた子どもの約半数が到達
- 30歳まで: 成人の多くがこの年齢まで生きた
- 60歳以上: 人口の約6-8%程度と推定されている
- 80歳以上: 極めて稀だが、存在していた(碑文などに記録あり)
寿命に影響した要因
社会階層による差異
- エリート層: 貴族や富裕層は40-60歳まで生きることが一般的
- 一般市民: 30-40歳程度が平均的
- 奴隷: 特に鉱山や船舶労働に従事した奴隷は20-30歳程度と短命
地理的・環境的要因
- 都市部: 人口密度の高いローマ市などでは疫病リスクが高く、寿命が短かった
- 農村部: 比較的清浄な環境で寿命が長い傾向
- 病気: マラリア流行地域(特にティベル川流域やカンパニア地方の湿地帯)では平均寿命が著しく低下
性別による差異
- 女性: 出産関連の死亡リスクが高く、若年での死亡率が高かった
- 男性: 戦争や危険な労働による死亡リスクがあった
- 全体として若干男性の方が平均寿命が短かったと推測される
長寿の例
歴史的記録
- アウグストゥス: 76歳まで生きた
- ティベリウス: 78歳
- ウェスパシアヌス: 69歳
- プリニウス・マイヨール(大プリニウス): 56歳(ヴェスヴィオ火山噴火で死亡)
- キケロ: 63歳(暗殺)
- セネカ: 約69歳(強制自殺)
碑文の証拠
- ローマ帝国内の墓碑には60-70歳代の記録が珍しくない
- 80歳以上の記録も少数存在し、90歳以上も極めて稀だが記録されている
- 100歳以上と記された墓碑も存在するが、数が限られており、年齢の正確性は疑問視される場合もある
長寿を支えた要因
医療
- 外科手術、薬草療法、基本的な衛生概念など一定の医療知識があった
- 大都市には医師(通常はギリシャ人)が存在し、裕福な層は医療へのアクセスがあった
- 軍団には軍医が配属され、兵士の健康管理が行われていた
食事と生活習慣
- 地中海式の食事(穀物、オリーブ油、ワイン、野菜、少量の肉と乳製品)
- 公衆浴場での定期的な入浴習慣
- 豊かな層では運動文化(パレストラでの運動など)
社会的セーフティネット
- 穀物配給制度(アンノナ)による都市住民の飢餓防止
- パトロン・クライアント制度による社会的保護
- 家族・血縁関係による相互扶助
老年期の社会的地位
尊敬と権威
- 「セネス」(老人)は経験と知恵の象徴として尊敬された
- 家長(パテル・ファミリアス)としての権威は生涯続いた
- 元老院では年長者の発言が尊重された
老後の生活
- 公務からの引退後も、多くは田園の別荘で農業管理や執筆活動
- 裕福な層は奴隷や解放奴隷による世話を受けた
- 貧困層の高齢者は家族による扶養か、極貧の場合は物乞いなどで生きた
古代ローマの寿命は現代と比べると大幅に短かったものの、衛生、医療、食事など生活環境に恵まれた人々は比較的長寿を享受できました。社会的・経済的地位による寿命の格差は現代以上に顕著であったと考えられています。
ここまでです。お付き合いくださり有り難うございました。