マルティアリスのエピグラムと古代ローマ ⅩⅩⅩⅡ

“Dentibus atque comis – nec te pudet – uteris emptis. Quid facies oculo, Laelia? Non emitur.”

Claude3.5Sonnetによる翻訳


これは貴婦人Laeliaの人工的な美しさを風刺した詩です。

文法的解説:

  • Dentibus atque comis: 奪格「歯と髪で」
  • uteris: utor(使う)の2人称単数現在形
  • emptis: emo(買う)の完了分詞「買われた」
  • nec te pudet: 非人称動詞pudet(恥じる)+対格
  • facies: facio(する)の2人称単数未来形
  • oculo: 奪格「目で」
  • non emitur: 非人称受動「買うことはできない」

日本語訳: 「歯も髪も―恥ずかしくもなく―お前は買ったものを使っている。 目についてはどうするつもりだ、ラエリアよ?それは買えないのだ。」

この詩は、当時の貴婦人たちが美しさを得るために人工的な手段(かつら、入れ歯など)に頼っていたことを風刺しています。

Laelia(ラエリア)


Laelia(ラエリア)について説明いたします:

名前の特徴

  • Laelia(ラエリア)は古代ローマの伝統的な名門、ラエリウス家(gens Laelia)の女性形
  • 純粋なローマの貴族名であり、ギリシャ系の名前(例:Philaenis)とは異なる社会的含意を持つ

マルティアリスの詩における扱い

  1. 社会的立場
  • 上流階級の女性として描かれる
  • 贅沢な生活を送る貴婦人の典型として使用
  • 人工的な美の追求者として風刺の対象に
  1. 文学的機能
  • ローマの上流社会の虚飾を代表する存在
  • 実在の人物を示唆する可能性もあるが、より一般的な「類型」として機能

歴史的文脈

  • ラエリウス家は共和政期から帝政期にかけての有力氏族
  • 教養と洗練を重んじる家系として知られた
  • 政治的影響力と文化的洗練を兼ね備えた家系

ただし、マルティアリスの詩に登場するこの特定のLaeliaについては、限られた史料からの情報のため、実在の人物との関係性については不確実な部分があります。古代ローマの風刺文学では、実在の人物と創作上の人物が混在することが多く、その区別は必ずしも明確ではありません。

女性の鬘(かつら)や入れ歯


古代ローマにおける女性の鬘(かつら)や入れ歯について詳しく説明いたします:

かつら(comae/capillamenta)

  1. 製造と材質
  • ゲルマン人女性の金髪の髪が最高級とされた
  • 黒髪はインドからの輸入品が多用
  • 人毛の他に獣毛や植物繊維も使用
  • 金髪に染める技術も発達(サフランなどを使用)
  1. 社会的意味
  • 豊かさと地位の象徴
  • 特に金髪のかつらは非常に高価
  • 貴婦人の間で流行した髪型を真似るための必需品
  • 若さと美の維持のための重要なアイテム

入れ歯(dentes empti)

  1. 材質と製法
  • 象牙が高級品として使用
  • 動物の骨を加工したものも一般的
  • 金や銀の留め金で固定
  • 木材を使用した安価な製品も存在
  1. 技術と装着
  • 金線で既存の歯に固定
  • ブリッジ様の技術も存在
  • 複数の歯を連結した部分入れ歯
  • 装着感は現代と比べると劣悪

美容における社会的文脈

  1. 美の基準
  • 白い歯は美の重要な要素
  • 豊かな髪は若さと健康の象徴
  • 特に上流階級では外見が重視された
  1. 風刺文学での扱い
  • マルティアリスを始め多くの作家が題材に
  • 人工的な美しさへの批判
  • 虚栄心への風刺
  • 老いを隠す試みへの揶揄
  1. 考古学的証拠
  • ポンペイなどの遺跡から多数の美容器具が出土
  • 入れ歯の装着痕のある頭蓋骨の発見
  • 髪型を再現するための頭部像の存在

美容産業

  1. 取引
  • 専門の職人や商人の存在
  • 帝政期には大規模な取引網
  • 高額な美容品への需要の高まり
  1. 技術発展
  • 装着技術の向上
  • より自然な外見への工夫
  • 染色技術の発達

このように、古代ローマにおける美容技術は予想以上に発達しており、現代に通じる美の追求が行われていたことがわかります。