マルティアリスのエピグラムと古代ローマそのⅦ

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Quadrantem Crispus tabulis, Faustine, supremis Non dedit uxori. “Cui dedit ergo?” Sibi.

Claude3.5Sonnetによる翻訳

このマルティアリスのエピグラムを文法的に解説しながら翻訳いたします。 第1行: Quadrantem (四分の一、対格) Crispus (クリスプス、主格) tabulis (遺言書、奪格) supremis (最期の、形容詞奪格) Non (〜ない) dedit (与えた、完了形) uxori (妻に、与格).

第2行: “Cui (誰に、疑問代名詞与格) dedit (与えた) ergo (それでは)?” Sibi (自分自身に、再帰代名詞与格).

日本語訳： 「クリスプスは遺言書で妻に四分の一も残さなかった。 『じゃあ誰に残したんだ？』 自分自身さ。」

文法的・語彙的解説： – tabulis supremis: 「最期の板（遺言書）」という意味の奪格 – quadrantem: ローマの相続における法定相続分を示す – uxori: 「妻に」を示す与格 – sibi: 再帰代名詞の与格で、「自分自身に」の意

詩の解説： この詩は、死ぬまで財産を手放さなかった吝嗇家を風刺しています。当時の遺言で妻への遺贈を否定するのは異常な行為とされており、そこに詩のユーモアと皮肉が込められています。”Sibi” という答えは、生前に全財産を使い果たしたことを示唆しています。

古代ローマの婚姻制度

古代ローマの婚姻制度について、主要な特徴を説明いたします。

法的形態：

  1. cum manu（手権を伴う婚姻）
  • 妻は夫またはその家長の法的支配下に入る
  • 妻の財産は夫側の家に移転
  • 以下の3つの方法で成立：
  • confarreatio（神聖な儀式による方法）
  • coemptio（模擬売買による方法）
  • usus（1年間の同居による時効取得）
  1. sine manu（手権を伴わない婚姻）
  • 妻は原家族との法的関係を維持
  • 財産の独立性が保たれる
  • 共和政後期から一般的となった形態

婚姻の要件：

  • 両当事者のconubium（正式な婚姻能力）
  • 適切な年齢（男性14歳以上、女性12歳以上）
  • 当事者の合意
  • 家長の同意
  • 近親婚の禁止

婚姻の効果：

  • 子の嫡出性の確定
  • 相続権の発生
  • 夫婦間の扶養義務
  • 妻の社会的地位の向上

持参金（dos）制度：

  • 婚姻時に妻方から夫に提供
  • 婚姻解消時の返還義務
  • 夫の管理権と使用収益権
  • 妻の経済的保護の機能

離婚：

  • 比較的自由に認められた
  • 一方的な意思表示で可能
  • 持参金の返還問題が重要
  • 子の親権は原則として父に

時代による変遷：

  • 共和政期：cum manuが一般的
  • 帝政期：sine manuが主流に
  • キリスト教の影響で次第に制限的に

社会的側面：

  • 政治的同盟としての機能
  • 家系の存続の重要性
  • 階級間の結びつきの手段
  • 女性の社会的地位向上の契機

この制度は、その後のヨーロッパの婚姻法に大きな影響を与え、現代の婚姻制度の基礎となる要素も含んでいます。特に、婚姻における当事者の合意の重要性や、財産関係の処理などの考え方は、現代にも引き継がれています。

cum manuからsine manuへの移行要因

cum manuからsine manuへの移行要因を、社会的・経済的・法的側面から説明いたします。

社会的要因：

  1. 女性の地位向上
  • 教育を受ける機会の増加
  • 社会活動への参加機会の拡大
  • 経済活動における自立性の要求
  1. 家族構造の変化
  • 大家族制から核家族化への進展
  • 都市化による伝統的家族観の変容
  • 家長権（patria potestas）の相対的弱体化

経済的要因：

  1. 財産関係の複雑化
  • 商業活動の発展による私有財産の増加
  • 女性の財産権への関心の高まり
  • 相続における女性の権利意識の向上
  1. 持参金制度の発展
  • 持参金の経済的重要性の増大
  • 婚姻解消時の財産返還の必要性
  • 女性側の財産保護への要求

法的要因：

  1. 法制度の整備
  • 法務官による新たな法的保護の創設
  • 婚姻・離婚に関する法的手続きの簡略化
  • 女性の法的能力の拡大
  1. 離婚の容易化
  • 離婚時の財産分与の問題
  • sine manuによる財産分離の利点
  • 離婚後の女性の経済的自立の必要性

政治的要因：

  1. 貴族階級の婚姻戦略
  • 政治的同盟としての婚姻の活用
  • 柔軟な婚姻関係の必要性
  • 家系間の財産移動の制御
  1. 帝政期の社会政策
  • アウグストゥスの婚姻法制
  • 人口政策との関連
  • 社会秩序の維持と変革

この移行は、ローマ社会の発展と変容を反映する重要な変化であり、特に女性の権利と地位向上の観点から重要な意味を持っています。sine manuへの移行は、より対等な婚姻関係への進展を示す指標とも考えられます。

お付き合いくださり有り難うございました。