マルティアリスのエピグラムと古代ローマ、 そのⅥ

Nil mihi das vivus; dicis post fata daturum. Si non es stultus, scis, Maro, quid cupiam.

Claude3.5Sonnetによる翻訳


このマルティアリスの風刺詩(エピグラム)を文法的に解説しながら翻訳させていただきます。

第1行: Nil (何も〜ない) mihi (私に) das (与える、2人称単数現在) vivus (生きている間は、形容詞主格); dicis (言う、2人称単数現在) post fata (死後に、前置詞+中性複数名詞対格) daturum (dare の未来分詞、〜するつもりである).

第2行: Si (もし) non (〜ない) es (be動詞、2人称単数現在) stultus (愚か者、形容詞主格), scis (知っている、2人称単数現在), Maro (マロよ、呼格), quid (何を、疑問代名詞) cupiam (望む、接続法現在1人称単数).

日本語訳: 「生きている間は私に何もくれないくせに、死んでから遺産をくれると言う。 もし君が馬鹿じゃないなら、マロよ、私が何を望んでいるか分かるだろう。」

詩の解説: これは遺産目当ての相続人に遺産を約束する金持ちを皮肉った詩です。最後の「私が何を望んでいるか」という部分は、「早く死んでほしい」という意味を暗示する風刺的な表現となっています。cupiamが接続法になっているのは、間接疑問文の中で使われているためです。

古代ローマの遺産相続制度


古代ローマの遺産相続制度について、主要な点を説明させていただきます。

相続制度の基本原則:

  • ローマ市民権を持つ家長(pater familias)のみが遺言を作成する権利を持っていました
  • 家長の死後、その財産は原則として家族内で相続されました
  • 相続人は家長の権利と義務の両方を継承することになりました

相続の形態:

  1. 遺言相続(testamentum)
  • 遺言は口頭または文書で行われ、証人が必要でした
  • 遺言には相続人指定が必須でした
  • 一定の近親者への最低限の遺贈(正当相続分)が法的に保護されていました
  1. 無遺言相続(intestatus)
  • 遺言がない場合は、以下の順序で相続が行われました:
  • 第一順位:自権相続人(sui heredes、家長の直接の支配下にあった子供たち)
  • 第二順位:最近親の宗族(agnati proximi)
  • 第三順位:同族(gentiles)

特徴的な制度:

  • 養子縁組(adoptio)も相続に関連する重要な制度でした
  • 解放奴隷の遺産は、一部が元の主人に相続される権利がありました
  • 遺贈(legatum)という制度により、特定の財産を指定して相続人以外に贈与することができました

社会的影響:

  • 遺産相続は社会的地位や政治的影響力の維持に重要な役割を果たしました
  • 「遺産狙い」(captatio)は当時の社会問題として、文学作品でもしばしば風刺の対象となりました
  • マルティアリスの先ほどのエピグラムも、この文脈で理解することができます

この制度は、その後のヨーロッパの相続法に大きな影響を与えることになりました。特に、遺言の自由と近親者の保護という二つの原則のバランスは、現代の相続法にも引き継がれています。

agnati proximi(最近親の宗族)について


agnati proximi(最近親の宗族)について詳しく説明させていただきます。

基本的概念:

  • agnatiとは、父系の血縁関係に基づく親族関係を指します
  • 同じ家長(pater familias)の権力下にある、あるいはその権力下にあった者たちの関係です
  • 男系の血縁によってのみ成立する関係であり、女系の血縁は考慮されません

特徴:

  1. 法的な家族関係:
  • 自然的な血縁関係ではなく、法的な家族関係を基準としています
  • 養子も宗族関係に含まれます
  • 一方、母方の親族や、婚出した女性の子は含まれません
  1. 相続順位:
  • 自権相続人(sui heredes)がいない場合の第二順位相続人となります
  • 最も近い親等の宗族が相続権を持ちます
  • 同じ親等の宗族が複数いる場合は、均分相続となります
  1. 親等の計算:
  • 共通の祖先から数えて、何世代離れているかで計算します
  • 例えば兄弟は第2親等、おじと甥は第3親等となります

歴史的変遷:

  • 共和政期から帝政期にかけて、血縁関係(cognatio)の重要性が増していきました
  • ユスティニアヌス法典では、宗族と血族の区別が実質的に廃止されています

この制度が示すものは:

  • ローマ社会における父権的家族制度の重要性
  • 財産の家族内での保持を重視する考え方
  • 法的な家族関係を自然的な血縁関係より重視する傾向

このagnati proximiの制度は、ローマ法の特徴的な要素の一つとして、後世のヨーロッパ法にも影響を与えました。


お付き合いくださり有り難うございました。