マルティアリスのエピグラムと古代ローマ、 そのⅤ

Semper eris pauper, si pauper es, Aemiliane:

Dantur opes nullis nunc nisi divitibus.

Claude3.5Sonnetによる翻訳と解説


このマルティアリスの風刺詩(『エピグランマタ』)の文法解釈と日本語訳を提供します:

文法解釈:
第1行目:

  • Semper (副詞) – 常に
  • eris (動詞、sum の未来形、2人称単数) – ~であろう
  • pauper (形容詞、主格) – 貧しい
  • si (接続詞) – もし~ならば
  • pauper (形容詞、主格) – 貧しい
  • es (動詞、sum の現在形、2人称単数) – である
  • Aemiliane (名詞、呼格) – アエミリアヌスよ

第2行目:

  • Dantur (動詞、受動態現在形) – 与えられる
  • opes (名詞、女性複数主格) – 富、財産
  • nullis (形容詞、与格) – 誰にも〜ない
  • nunc (副詞) – 今
  • nisi (接続詞) – 〜を除いて
  • divitibus (形容詞、与格複数) – 金持ちの

日本語訳:
「もし今貧しければ、アエミリアヌスよ、お前は永遠に貧しいだろう。
今や富は金持ちにしか与えられないのだから。」

この詩は、ローマ社会における貧富の格差と、一度貧しくなると這い上がることが難しい社会の現実を風刺的に描いています。「金持ちはより金持ちに、貧乏人は貧乏のまま」という格差社会への批判が込められています。

当時のローマ社会では、パトロン(庇護者)とクリエンス(被庇護者)の関係が重要でしたが、この詩はそのような社会システムの不公平さも示唆していると解釈できます。

古代ローマの貧富


古代ローマにおける貧富の差について説明します:

社会階層:

  • 元老院議員階級(セナトール):最上位の特権階級で、莫大な土地所有と財産を持っていました
  • 騎士階級(エクイテス):商人や金融業者が多く、裕福な中間層を形成
  • 平民(プレブス):一般市民で、経済状況は様々でした
  • 奴隷:財産として扱われ、最下層に位置しました

富の集中:

  • 帝政期には全財産の大部分が人口の1%程度に集中していたとされます
  • 土地所有が富の基盤で、大土地所有者は莫大な富を築きました
  • 商業や金融で財を成す者も増えましたが、上流階級は商売を卑しいものとみなしていました

貧困層の実態:

  • 都市の貧民は狭い集合住宅(インスラ)に住み、日々の生活に苦しみました
  • 食料配給(アンノーナ)に依存する市民も多く存在しました
  • 債務奴隷となる貧民も多く、貧困の連鎖から抜け出すのは困難でした

社会制度の影響:

  • パトロン・クリエンス制度により、貧困層は富裕層への依存を強いられました
  • 政治的影響力も富と密接に結びついていました
  • 軍事サービスには一定の財産が必要で、貧民には参加が難しかったです

このような貧富の差は、マルティアリスのような文学者たちによって度々批判の対象となりました。当時の社会システムは、既存の格差を固定化・拡大する傾向にあったと言えます。

貧者上昇の可能性


古代ローマでも、貧しい身分から富を築くことは可能でしたが、非常に困難でした。以下に、社会的上昇の可能性とその事例を説明します:

成功の経路:

  • 軍事での功績:有能な軍人として頭角を現し、戦利品や褒賞で財を築くケース
  • 商人としての成功:特に海上貿易や不動産業で財を成した人々がいました
  • 解放奴隷の成功:主人から自由を得た後、商売や技能で財を築いた事例
  • 教育者や芸術家:才能を認められ、有力者のパトロネージを得て地位を上げた例

成功を阻む要因:

  • 教育機会の制限:良質な教育は費用がかかり、貧困層には困難でした
  • 社会的偏見:上流階級は商業活動を蔑視し、新興成功者を軽視する傾向がありました
  • 人脈の欠如:重要な取引や機会は、既存の上流階級のネットワークで独占されがちでした
  • 初期投資の困難:事業を始めるための資金調達が困難でした

成功の実例:

  • トリマルキオ:『サテュリコン』に描かれた成功した元奴隷の典型
  • ペルティナクス帝:木材商人の息子から皇帝にまで上り詰めた実在の人物
  • 政治家キケロ:地方の騎士階級出身ながら、才能で元老院議員にまで上昇

しかし、これらの成功例は例外的であり、多くの場合:

  • 運やタイミングの要素が大きかった
  • 並外れた才能や努力が必要だった
  • 有力者の庇護を得る必要があった

このように、社会的上昇の機会は存在したものの、システムとしては既存の階層構造を維持・強化する方向に働いていたと言えます。


ここまでです。お付き合いくださり有り難うございました。