1170年12月29日に起きたトマス・ベケットの暗殺について説明します。

トマス・ベケットはヘンリー2世の宰相を務めた後、カンタベリー大司教に任命されました。当初は国王の意向に沿う人物として期待されましたが、大司教就任後は教会の権益を守る立場を取り、次第にヘンリー2世との関係が悪化していきました。
特に、聖職者の裁判権をめぐる対立が深刻でした。ヘンリー2世は犯罪を犯した聖職者を世俗の裁判所で裁くことを望みましたが、ベケットは教会法廷での裁判を主張し、両者の対立は決定的になりました。
事件当日、ヘンリー2世の「この厄介者から誰か私を解放してくれないのか」という言葉を聞いた4人の騎士が、カンタベリー大聖堂に押し入りました。彼らは晩課の最中に大聖堂内でベケットを見つけ、剣で襲撃。ベケットは「私は喜んで神と聖なる教会のために死のう」という言葉を残して殉教しました。
この事件は中世ヨーロッパに大きな衝撃を与え、ベケットは1173年に列聖されました。カンタベリー大聖堂は重要な巡礼地となり、チョーサーの『カンタベリー物語』の舞台としても知られています。この事件は、中世における教会と王権の対立を象徴する出来事として歴史に残っています。