伝道者トランプ大統領

トランプ大統領が好きか嫌いかは別として、この人の言動を理解するためには、彼が一つの宗教の伝道者であるということを知る必要があるように思われます。

その宗教とは、自助の精神を基礎とする宗教です。つまり、「神は。自ら助ける者を助ける」です。これは、スマイルズの名とともに知られていますが、トランプ氏にとっては処世術以上のもので宗教です。この宗教が体現される国こそアメリカであり、その担い手がアメリカ人です。そして、そこには肌の色による区別・差別はありません。同じ赤い血が流れているとトランプ氏は言いました。

ちなみに、この宗教は、人間の罪については無頓着で、弱さを受容できず、そこに現れる神の栄光を知りません。また、人々の福祉への関心は低く、必ずしも倫理的とはいえず、力と富みに価値を置きます。

この宗教は、トランプ氏の過激な言葉によって、眠っていた人々の心に届き、彼らの自尊心に火をつけて、立ち上がらせたのだと思います。この人々にとっては雇用こそ希望です。なぜなら自らを助けることがそれによって可能となるからです。自分たちは誇りをもって働きたいのだ、その思いを汲み取ってくれたのがトランプ氏で、働くことで創造者に応え、その助け(祝福)にあずかりたいと願うのです。

自ら助ける者を助ける神に忠実であれば、神の国アメリカは栄え、アメリカ人は幸せを享受する。伝道者トランプ氏は、そう語りかけています。強いアメリカの回復です。それは、世界の国々、人々にとっての模範となるのだとも言いました。

トランプ氏がこの宗教の伝道者であると思えば、その過激な言動も理解できます。また、数々の大統領令は、その象徴として理解できます。壁を造ったり、軍の増強をはかったり、特定の国の人々の入国を拒否したりして、貪欲に自国を守る、守る努力をする。TPPのような経済圏に身を委ねるのではなく個々の国々と別個に経済協定を結ぶこと、銃を持つ権利を守り、福祉へと傾いて誇りを失わせることがないようにとオバマ前大統領の政策を覆したこと等々です。

宗教の伝道者ですから、非現実的なことを言ってもあたりまえのことなのだと思います。それは、アメリカという宗教を回復し、人々を励まし、力づけようとしている伝道者の言葉です。そして、現実政治のためには、彼の宗教を信奉する実際的な政治家が控えています。

さて、この宗教は広く感化を及ぼすと思います。昔、グノーシスが当時の地中海を中心とした世界全般に影響を与えたように、個々の国でその形態は異なったとしても、「神は、自ら助ける者を助け、その国は栄え、富む。」という原則が、流行病のように広がり、共有されると思われます。

わたしたちは、この強さと富とを求める宗教とは違って、聖書に聞き、宗教改革の伝統に立って、神の栄光を仰いで、教会・共同体を建てていくことになります。