西静分区の教師会(牧師会)で紹介しました。この会には15分ほどの予定で、本の紹介コーナーがあり、牧師が順番で担当します。6月は私の番でした。
2006年出版 (中央公論新社2200円)ですから、10年ほど前の本です。東京にいるときにある人に紹介されて購入したのですが、まともに読んでいなかったのです。浜松にきて読み直し、決して新しい本ではありませんが、良い本だと思ったので教師会で紹介することにしました。
著者は1945年生まれ、わたしより5歳上です。当時、京都精華大学教授、同大学文字文明研究所所長でした。
本書は、端的に紹介すると、従来西欧のアルファベット文化圏が生んだ音声言語学をはみ出す東アジア漢字文化圏の書字言語に着目して、日本語とはどのような特質を有している言語かを整理している。また、言語の文体と密接に結びついている文化のスタイルと、その蓄積としての歴史にまで視野を拡げて、日本語を考察している。ということになります。(「音声言語学」「書字言語」は著者の造語だと思います。)
以下は、著書の中で日本語の特質を箇条書きに整理しているので紹介します。
<前提、その輪郭>
1、言葉は人間の表出と表現の中心に位置する。→人間存在とは言葉とともにあるということでしょう。
2,言葉は言(はなしことば)と文(かきことば)の統合である。 →著者の主張の根幹にあることです。
3,声が言葉に内在的であると同様に、文字もまた言葉に内在的である。
4,言葉は語彙と文体からなる。
<日本語とはどういう言語か>
1,日本語とは、東海の孤島で生まれた言語である。 →漢字文化圏の一言語であることを示しています。
2,日本語とは漢字と平仮名と片仮名という三種類の文字をもつ(成り立った)言語である。
3,日本語の語彙は漢語=音語と、和語=訓語と、片仮名語=助詞からなる。
4,日本語の文体は、漢詩・漢文体と、和歌・和文体を両極として成立している。
5,漢詩、漢文とそれらの訓読体と音語は主として政治的、思想的、抽象的表現を担い、和歌、和文と訓語は主として性愛と四季と絵画的具象的な表現を担う。
6,このような二重複線の日本語の構造は、平安時代に生まれた。
7,平安中期に成立した日本語は、中世、近世、近代、戦後、1970年代半ばにそれぞれ 転生を遂げている。
著者は書家のようです。書字の研究から、言語を観察し、ユニークな日本語論を展開しています。読み応えがあり、一考に値します。 日本語と比較して中国語、朝鮮語、ベトナム語が、また、東アジア漢字文化圏との比較で西欧アルファベット文化・言語についても論じられています。ちょっと大雑把ではないかと感じられるところもありますが面白いです。
また、「美しい日本語」「美しい日本」「神の国」論が、「外国人」「三国人」などの差別的発言と重ねられて、政治家や、ややもすると知識人からも発せられていますが、著者はそれらの発言の背後には日本語(論)についての誤解があると言っています。ベトナム語や朝鮮語などと同じように日本語と文化は東アジア漢字文化圏の周辺で育まれた一言語であるのだ、と。